コーポレートガバナンスのコード改訂
2026年7月、コーポレートガバナンス・コードが大幅に改訂される見通しです。今回のテーマは「形式から実質へ」の転換。従来のチェックリスト型対応では不十分となり、企業は自社の稼ぐ力を高めるガバナンスを自らの言葉で開示する段階に入ります。
この変化は経営陣だけの話にとどまりません。有価証券報告書の総会前開示と非財務データの信頼性担保という2つの課題は、内部統制の実務担当者の業務を根本から変えようとしています。
2026年CGコード改訂で何が変わるのか
改訂の経緯と「プリンシプル化・スリム化」の核心
コーポレートガバナンス・コードは2015年に策定され、2018年と2021年に改訂を重ねてきました。2026年の改訂案では「プリンシプル化・スリム化」が掲げられています。
補充原則のうち重要度の高い項目を原則に格上げし、法令と重複する箇所を削除、一部を解釈指針へ移管する構成です。コード自体をコンパクトにしつつ、各原則の趣旨・精神に沿った実質的な対応を企業に促す狙いがあります。
形式的にコンプライする姿勢ではなく、自社の状況を踏まえた「丁寧なエクスプレイン(説明)」の重要性が序文で明記されました。
「攻めのガバナンス」と経営資源の検証
改訂案4-2の解釈指針には、経営資源の活用に関する新たな責務が追加されています。現預金等の金融資産や実物資産を成長投資に有効活用できているかを含め、不断に検証することが取締役会に求められる形です。
「守りのガバナンス」にとどまらず、資本効率の改善や成長投資を促す仕組みへの転換が鮮明になりました。内部統制部門にとっても、経営判断を支えるデータの質と速度が問われる局面です。
有報の総会前開示がもたらす内部統制プロセスの激変
原則1-2に明記された総会前開示
改訂案の原則1-2では、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することが明記されました。解釈指針はさらに踏み込み、「総会開催日の3週間以上前の提出が望ましい」とスケジュールの目安にも言及しています。
日経225構成銘柄では、総会前開示の実施率が前期の10.5%から81.2%へ急増しました。制度対応の一般化は急速に進んでおり、未対応企業に対する市場の目は厳しさを増す一方です。
従来プロセスの限界とDXの必要性
決算から開示までの期間が短縮されると、Excelベースの属人的なバケツリレー型確認作業では物理的に処理が追いつかなくなります。担当者間のファイル受け渡しやメールでの承認確認は、ボトルネックとなるリスクが高まっています。
財務データの集計・照合・承認フローをシステム化し、業務スピードを抜本的に引き上げるDX推進が急務です。監査法人との連携スケジュールの再設計や承認ワークフローの電子化など、プロセス全体の見直しが不可欠といえます。
非財務データの信頼性担保
「攻めの投資」を支える非財務情報の正確性
経営陣が投資家へ成長戦略を示す際、その根拠となるデータの信頼性は欠かせません。人的資本やESGといった非財務情報は、投資判断の材料として年々重みを増しています。
改訂案では原則4-5が新設され、サステナビリティを巡る取組みの基本方針策定が取締役会の責務として明確化されました。開示する非財務データの正確性を裏付ける内部統制プロセスの構築は、もはや避けて通れない課題です。
J-SOXの枠を超えた統制構築と限られた準備期間
内部統制部門はこれまで J-SOX を中心に財務データの統制を担ってきました。一方、非財務データは収集元が人事・環境・総務など複数部門にまたがります。定義やフォーマットの標準化が追いついていないケースも少なくありません。
2027年3月期からはSSBJ基準が一部企業に適用される見通しであり、準備に使える時間は限られています。データ収集・集計・可視化のプロセス設計を早期に進め、監査に耐えうる体制を構築することが求められます。
まとめ――内部統制の視点で捉える「攻めのガバナンス」
コーポレートガバナンス・コード改訂は、取締役会や経営企画部門だけのテーマではありません。有報の総会前開示に対応する業務プロセスの刷新が求められています。非財務データの信頼性を裏付ける統制基盤の構築も、内部統制担当者の業務に直結する課題です。
2つの課題に早期着手することが、企業のガバナンス全体の質を底上げする力になります。「守り」の統制を磨きながら経営の「攻め」を支える――その視点を持つことが、これからの内部統制担当者に求められています。
しています!
上智大学経済学部卒業。大原簿記学校講師、青山監査法人(当時)勤務を経て、1998年KPMGニューヨーク事務所に入社。
2002年以降は、KPMG東京事務所(現あずさ監査法人)にて外資系企業の法定監査、デューデリジェンス、SOX法対応支援業務を担当する。
現在は、経営コンサルタントとして、内部統制構築支援やIFRSコンバージョン支援に携わるとともに、各種実務セミナー講師としても活躍中。
著書『フローチャート式ですぐに使える内部統制の入門と実践』他。
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