職務分掌とは?

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内部統制を適切に機能させるには、社内の業務について「誰が担当するのか」「誰が確認するのか」「誰が承認するのか」を明確にする必要があります。そこで重要になるのが、職務分掌です。

職務分掌とは、部署・役職・担当者ごとに、業務範囲・責任・権限を明確に分けることです。役割があいまいなままだと、業務の抜け漏れや重複が起こりやすくなるだけでなく、不正やミスを発見しにくくなるおそれがあります。

特に、経理・財務・購買・販売管理・人事労務・情報システムなど、金銭や重要情報を扱う業務では、担当者と承認者を分けることが内部統制上の重要なポイントになります。

職務分掌とは

職務分掌とは、組織の中で各部署や担当者がどの業務を担うのかを整理し、責任範囲や権限範囲を明確にすることです。たとえば経理部門であれば、請求書を確認する人、仕訳を入力する人、支払を承認する人、入金を確認する人を分けるといった形です。

職務分掌で明確にする主な項目は、次の3つです。

  • 業務範囲:誰がどの業務を担当するのか
  • 責任範囲:業務の結果に対して誰が責任を持つのか
  • 権限範囲:誰が承認・決裁・システム操作を行えるのか

この3つが整理されていないと、業務が属人化しやすくなります。また、問題が起きた際に原因や責任の所在を特定しづらくなり、再発防止策も立てにくくなります。

内部統制において職務分掌が重要な理由

内部統制とは、業務の有効性・効率性、報告の信頼性、法令等の遵守、資産の保全を目的として、組織内で遂行されるプロセスです。内部統制は、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応の6つの基本的要素から構成されます。

参照元:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/kijun/20230407_naibutousei_kansa.pdf

職務分掌は、このうち特に「統制活動」と深く関係します。統制活動とは、リスクを低減するための方針や手続きのことです。誰が実行し、誰が確認し、誰が承認するのかを分けることで、不正やミスを防ぐ牽制機能が働きます。

たとえば、請求書の受領、支払データの作成、承認、振込実行までを同じ人が行える状態では、不正送金や誤処理が発生しても気づきにくくなります。そのため、支払データを作成する人と承認する人を分ける、取引先マスタを登録する人と確認する人を分けるなどの仕組みが必要です。

職務分掌・業務分掌・職務分離の違い

職務分掌と混同されやすい言葉に、業務分掌と職務分離があります。

職務分掌と業務分掌の違い

業務分掌は、部署や部門ごとの業務範囲を明確にするものです。たとえば、営業部は顧客対応や受注活動を担当し、経理部は請求・入金・会計処理を担当するといった整理が業務分掌にあたります。

職務分掌と職務分離の違い

一方、職務分掌は、部署内の役職や担当者ごとに、より具体的な職務・責任・権限を明確にするものです。経理部内で、誰が請求書を発行し、誰が入金確認を行い、誰が承認するのかを決めることが職務分掌です。

職務分離は、不正やミスを防ぐために、相反する業務を同じ人に担当させない考え方です。たとえば、支払データを作成する人と振込を承認する人を分ける、仕訳を入力する人と確認する人を分けるといった対応が該当します。

職務分掌は「誰が何を担当するか」を決める考え方であり、職務分離はその中でも不正・ミスの防止を目的に役割を分ける考え方だと整理するとわかりやすいでしょう。

職務分掌を整備するメリット

職務分掌を整備すると、まず責任の所在が明確になります。業務の担当者、確認者、承認者が整理されるため、判断に迷ったときの確認先もわかりやすくなります。

また、業務の抜け漏れや重複を防ぎやすくなります。担当範囲があいまいな場合、「誰かが対応していると思っていた」という状況が起こりがちですが、職務分掌が明確であれば、各業務の担当者を把握しやすくなります。

さらに、不正リスクの低減にもつながります。支払い、入金、在庫、固定資産、システム権限などの業務では、一人に権限が集中すると不正や誤処理のリスクが高まります。実行者と承認者を分け、証跡を残すことで、内部統制の実効性を高められます。

上場企業やIPO準備企業では、財務報告に係る内部統制への対応も重要です。職務分掌が整備されていれば、業務記述書、フローチャート、リスク・コントロール・マトリクスなどの作成にもつなげやすくなります。

参照元:OBC「内部統制報告制度(J-SOX)とは?特徴、目的、対応の流れ」(https://www.obc.co.jp/special/ipo/column/list/124

職務分掌規程の作り方

職務分掌を社内で運用するには、職務分掌規程として文書化することが有効です。規程化することで、担当者が変わっても同じルールで業務を進めやすくなり、監査対応や引き継ぎにも活用できます。

作成の流れは、次のように整理できます。

  1. 職務分掌を整備する目的を明確にする
  2. 組織図と現在の業務フローを整理する
  3. 業務ごとの担当者・確認者・承認者を洗い出す
  4. 決裁権限やシステム権限を整理する
  5. 代行ルールや例外対応を決める
  6. 職務分掌規程として明文化する
  7. 従業員に周知し、定期的に見直す

規程には、目的、適用範囲、部署別・役職別の職務内容、責任範囲、権限範囲、承認フロー、決裁権限、代行者、例外対応、改定手続きなどを記載します。

特に重要なのは、規程上のルールと実際の業務が一致しているかを確認することです。規程では上長承認が必要とされていても、実務では口頭確認だけで処理されている場合、内部統制上の証跡が残りません。

少人数組織で職務分掌を機能させるポイント

中小企業やスタートアップでは、人員が限られているため、理想どおりに担当者を分けられないことがあります。その場合でも、何も対策をしないのではなく、代替的な統制を設けることが重要です。

たとえば、担当者が支払データを作成し、代表者や上長が月次で支払一覧を確認する、一定金額以上の取引だけ承認を必須にする、システムの操作ログを確認する、外部の税理士や公認会計士にチェックしてもらうといった方法があります。

完全な職務分離が難しい場合でも、重要な業務に確認・承認・記録の仕組みを設けることが大切です。

職務分掌を形骸化させないための注意点

職務分掌は、一度作成して終わりではありません。組織変更、人事異動、新規事業の開始、システム変更、監査指摘、ミスの発生などがあった場合は、内容を見直す必要があります。

また、現場の実態と規程がずれていないかを定期的に確認することも重要です。担当者に過度な負担がかかっていないか、承認フローが複雑になりすぎていないか、例外処理が常態化していないかを確認しましょう。

職務分掌を実効性のあるものにするには、規程を整えるだけでなく、日常業務の中で運用され、必要に応じて見直される状態にしておくことが欠かせません。

まとめ

職務分掌は、社内の業務・責任・権限を明確にし、内部統制を機能させるための基本的な仕組みです。担当者と承認者を分け、業務の流れや権限を整理することで、不正やミスの防止、業務効率化、監査対応のしやすさにつながります。

ただし、職務分掌は規程を作るだけでは十分ではありません。自社の規模やリスクに応じて、承認フロー、システム権限、証跡管理、定期的な見直しまで含めて運用することが重要です。

代表 佐々野未知
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代表佐々野未知

上智大学経済学部卒業。大原簿記学校講師、青山監査法人(当時)勤務を経て、1998年KPMGニューヨーク事務所に入社。
2002年以降は、KPMG東京事務所(現あずさ監査法人)にて外資系企業の法定監査、デューデリジェンス、SOX法対応支援業務を担当する。
現在は、経営コンサルタントとして、内部統制構築支援やIFRSコンバージョン支援に携わるとともに、各種実務セミナー講師としても活躍中。
著書『フローチャート式ですぐに使える内部統制の入門と実践』他。

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