内部統制を効率化するには?
上場後、毎年の内部統制の評価や監査対応に多くの工数がかかり、「もう少し負担を減らせないか」と感じている経理・内部統制の担当者は少なくありません。一方で、やみくもにチェックを減らせば、不備の見落としや監査法人からの指摘につながるおそれもあります。
内部統制の効率化で大切なのは、統制の実効性を保ったまま、リスクの大きさに応じて手間のかけ方を見直すことです。
本記事では、内部統制の評価・運用の負担が膨らむ主な要因と、効率化のための6つの方法、進め方と注意点を解説します。
内部統制は効率化して問題ないのか?
内部統制報告制度は、もともと企業に過度な負担を求めることを前提としたものではありません。2011年(平成23年)には、企業会計審議会が基準・実施基準の簡素化・明確化を行い、制度の運用の見直しが図られています。
当審議会が策定した内部統制の基準・実施基準の更なる簡素化・明確化等の検討を行い、内部統制報告制度の運用の見直しを図ることとした。
つまり、基準の範囲内で評価の方法を工夫し、メリハリをつけることは制度上も想定されているといえます。
評価・運用の負担が膨らむ主な要因
内部統制の負担が大きくなる背景には、次のような要因があります。
- 上場準備期に設定した評価範囲や評価手続を、見直さないまま毎年続けている
- リスクの大小にかかわらず、すべての統制に同じ手間をかけている
- 承認や照合などの確認作業を手作業に頼っている
- 毎年すべての統制をゼロから評価し直している
- 業務が変わるたびに3点セットの修正に追われている
- 社内の評価と監査法人の手続で、同じ確認を重複して行っている
なお、負担の大きさだけでなく、統制が形だけになって機能していない状態が気になる場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
内部統制を効率化する6つの方法
代表的な効率化の方法と、期待できる効果・注意点を整理すると次のとおりです。
1.評価範囲をリスクに応じて見直す
上場準備期に設定した評価範囲を、その後の事業の変化を踏まえずに毎年踏襲しているケースがあります。事業拠点や業務プロセスごとに、財務報告への影響の大きさを改めて確認し、評価の重点を置く範囲を見直しましょう。
ただし、2023年4月に改訂された基準では、評価範囲の決定について「売上高等のおおむね3分の2」などの例示を機械的に適用すべきでないことが明記されています。範囲を狭めることが目的ではなく、リスクの大きい領域に評価の手間を集中させるという考え方で見直すことが大切です。
2.キーコントロールを絞り込む
業務プロセスの評価では、リスクに対応するすべての統制を評価する必要はなく、財務報告の虚偽記載を防ぐうえで特に重要な統制(キーコントロール)を選んで評価します。
キーコントロールが多すぎると、評価の工数が膨らみます。同じリスクに複数の統制が設定されていないか、より上流で効果的に防げる統制がないかを確認し、リスクに対して必要十分な統制に絞り込むことで、評価の負担を抑えられます。
3.前年度の評価結果を活用する
毎年すべての統制の運用状況をゼロから評価し直す必要はありません。2011年の基準改訂では、一定の条件のもとで前年度の評価結果を継続して利用できることが明確化されました。
前年度の評価結果が有効であり、整備状況に重要な変更がない場合には、前年度の運用状況の評価結果の継続利用が可能であることを明確化した。
継続利用の対象や要件は統制の種類によって異なるため、どの統制に適用できるかは監査法人と事前にすり合わせておきましょう。IT業務処理統制の評価頻度の考え方については、当サイトのQ&Aでも解説しています。
4.手作業の統制をITによる自動化統制に置き換える
入力値の自動チェック、システム上の承認フロー、マスタの変更制限など、ITを活用した統制は、手作業の確認に比べて担当者の負担が小さく、確認漏れも起こりにくいのが特徴です。手作業の照合や承認が多いプロセスは、自動化できる統制がないかを検討してみましょう。
ただし、ITを利用した統制が有効であるためには、システムの開発・変更やアクセス権限が適切に管理されている必要があります。自動化を進める場合は、IT全般統制の整備・評価もあわせて計画することが欠かせません。
5.3点セットの更新ルールを決めておく
業務記述書・フローチャート・RCMの3点セットは、業務が変わるたびに修正が必要になります。修正が評価直前に集中すると、担当者の負担が一時期に偏ります。
組織変更やシステム変更、新しい取引の開始など、文書を見直すきっかけとなる事象をあらかじめ決めておき、変更が起きた時点で関係部署から情報が届く流れをつくっておくと、更新作業を平準化できます。
6.内部監査と監査法人の手続の重複を減らす
社内の内部監査部門による評価と、監査法人による内部統制監査で、同じ統制を別々に確認しているケースもあります。基準では、監査人が企業の内部監査の業務を利用できることが定められています。
監査人は、内部統制の基本的要素であるモニタリングの一部をなす企業の内部監査の状況を評価した上で、内部監査の業務を利用する範囲及び程度を決定しなければならない。
内部監査の計画や手続、証跡の残し方を監査法人と共有し、監査法人が内部監査の結果を利用しやすい状態を整えておくことで、手続の重複を減らせる可能性があります。
内部統制の効率化を進める手順
効率化は、思いついたところから手をつけるのではなく、次のような順序で計画的に進めるのがおすすめです。
- 現状の評価範囲・統制・評価手続と、それぞれにかかっている工数を棚卸しする
- リスクの大きさと工数を比べ、見直す余地の大きい領域に優先順位をつける
- 見直し案をまとめ、監査法人と事前に協議する
- 統制や評価手続を変更し、必要に応じて3点セットを更新する
- 翌年度の評価で効果と影響を確認し、次の見直しにつなげる
特に3つ目の監査法人との協議は重要です。評価範囲や評価手続を変更すると、監査法人の監査手続にも影響します。期末間際に変更を伝えると調整が間に合わないこともあるため、期初の計画段階で見直しの方針を共有しておくとスムーズです。
効率化を進めるときの注意点
必要な統制まで減らさない
効率化の目的は、内部統制の実効性を保ったまま負担を最適化することです。工数の削減だけを目標にすると、リスクに対応する統制まで外してしまい、不備につながるおそれがあります。統制を見直すときは「この統制がなくなったら、どのリスクを防げなくなるか」を一つずつ確認しましょう。
変更後は整備状況を改めて確認する
統制の内容や手順を変更した場合は、変更後の統制が適切に設計されているか(整備状況)を確認する必要があります。また、整備状況に重要な変更があると、前年度の評価結果を継続して利用できなくなる点にも注意が必要です。
現場に変更の目的を伝える
統制の変更は、実際に統制を運用する現場の協力があってこそ定着します。何をなぜ変えるのかを担当者に伝え、新しい手順が日々の業務に無理なく組み込まれているかを確認しましょう。
社内のリソースだけで進めるのが難しいときは
効率化の見直しには、統制ごとのリスク評価や監査法人との協議など、専門的な判断が求められる場面が多くあります。社内の人員が限られている場合や、どこから手をつけるべきか判断がつかない場合は、内部統制の専門家の支援を受けるのも有効な方法です。
しています!
上智大学経済学部卒業。大原簿記学校講師、青山監査法人(当時)勤務を経て、1998年KPMGニューヨーク事務所に入社。
2002年以降は、KPMG東京事務所(現あずさ監査法人)にて外資系企業の法定監査、デューデリジェンス、SOX法対応支援業務を担当する。
現在は、経営コンサルタントとして、内部統制構築支援やIFRSコンバージョン支援に携わるとともに、各種実務セミナー講師としても活躍中。
著書『フローチャート式ですぐに使える内部統制の入門と実践』他。
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