内部通報制度とは

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企業の不正や法令違反は、社外に発覚する前に社内で気づき、早期に是正できるかどうかが重要です。その仕組みの中心にあるのが「内部通報制度」です。

内部通報制度とは、従業員などが社内の不正行為や法令違反を、通常の指揮命令系統とは別の窓口に通報できるようにする仕組みのことです。近年は、公益通報者保護法の改正によって一定規模以上の企業に体制整備が義務づけられ、内部統制を担当する人にとっても避けて通れないテーマになっています。

内部統制に初めて関わる人は、内部通報制度を単なる「通報窓口」ではなく、不正を早期に発見し、是正するための内部統制の仕組みの一つとして理解すると分かりやすいでしょう。

内部通報制度とは

内部通報制度は、従業員や役員などが、社内で発生している不正行為・法令違反・ハラスメント・会計不正などを、社内外に設けた窓口へ通報できるようにする制度です。

通常、社内で問題に気づいても、直属の上司に相談しづらい、報復が怖い、といった理由で声を上げられないことがあります。内部通報制度は、こうした問題を通常の報告ルートとは別のルートで受け付け、通報者が不利益を受けないように保護しながら、組織として調査・是正を行うための仕組みです。

内部通報制度は、法律上「公益通報」と呼ばれる通報を受け付ける役割を担うことが多く、公益通報者保護法によってその枠組みが定められています。

内部通報制度と内部統制の関係

内部通報制度は、内部統制の6つの基本的要素のうち、特に「モニタリング(監視活動)」と「統制環境」に深く関わります。

内部統制では、日常的な業務の中でルールが守られているかを継続的に確認する「日常的モニタリング」と、独立した立場から定期的に評価する「独立的評価」の両面が求められます。内部通報制度は、現場で働く従業員からの情報を吸い上げることで、通常の管理では見つけにくい不正やリスクを早期に検知する役割を果たします。

また、通報しても不利益を受けないという安心感は、健全な組織風土、すなわち統制環境の土台にもなります。内部通報制度が形だけでなく実際に機能しているかどうかは、その企業の内部統制の実効性を測る一つの目安になります。

公益通報者保護法と体制整備の義務

内部通報制度を考えるうえで欠かせないのが、公益通報者保護法です。この法律は、通報を理由とした解雇や不利益な取扱いから通報者を保護するために、2006年に施行されました。

その後、2022年6月1日に施行された改正法により、常時使用する労働者が300人を超える事業者に対して、内部通報に対応するための体制整備が法的義務となりました。300人以下の事業者については、努力義務とされています。

従業員数(常時使用する労働者) 体制整備・従事者指定
301人以上(300人超) 法的義務
300人以下 努力義務

ここでいう労働者には、正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣労働者なども含まれる点に注意が必要です。

また、300人を超える事業者は、通報者を特定できる情報を扱う担当者を「公益通報対応業務従事者」として指定する義務があります。従事者には守秘義務が課され、正当な理由なく通報者を特定させる情報を漏らした場合には、30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

内部通報の窓口には2つの種類がある

内部通報制度を整備する際は、通報を受け付ける窓口を設置します。窓口には大きく分けて「社内窓口」と「社外窓口」の2種類があり、両方を併設する企業も少なくありません。

窓口の種類 設置先 特徴
社内窓口 コンプライアンス部門、法務部門、内部監査部門など 社内事情を把握しやすく、迅速に対応できる。一方で、通報者が身内への通報に心理的な抵抗を感じる場合がある。
社外窓口 法律事務所や専門の民間事業者などに委託 独立性が高く、通報者が安心して利用しやすい。匿名性を確保しやすい一方、委託費用が発生する。

どちらか一方だけでなく、社内窓口と社外窓口を組み合わせることで、通報者が状況に応じて使い分けられるようにしておくと、制度の利用が進みやすくなります。

通報対応の基本的な流れ

内部通報制度では、通報を受け付けてから是正・フィードバックまでの一連の流れをあらかじめ整理しておくことが大切です。一般的な対応の流れは次のとおりです。

  • 窓口が通報を受け付け、通報者へ速やかに受付通知を行う
  • 通報内容を確認し、調査の要否や範囲を判断する
  • 関係者へのヒアリングや資料確認などの調査を実施する
  • 調査結果に基づき、不正があれば是正措置・再発防止策を講じる
  • 調査・是正の結果を、可能な範囲で通報者にフィードバックする
  • 通報者が不利益な取扱いを受けていないかを継続的に確認する

特に重要なのは、通報者の氏名や通報内容といった秘密を厳格に守り、通報を理由とした不利益な取扱いを絶対に行わないことです。ここが徹底されていないと、従業員は制度を信頼せず、通報そのものが集まらなくなってしまいます。

2026年12月施行の改正公益通報者保護法のポイント

公益通報者保護法は、2025年6月に再び改正され、2026年12月1日に施行される予定です。制度の実効性をさらに高めることを目的としており、内部統制担当者が押さえておきたい改正点は次のとおりです。

  • 事業者による体制整備の徹底と実効性の向上
  • 保護される公益通報者の範囲の拡大
  • 公益通報を阻害する要因(通報を妨げる行為など)への対処
  • 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

特に大きな変更が、不利益取扱いに対する刑事罰の新設です。改正法では、通報を理由に解雇や懲戒を行った場合、行為者個人には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科される可能性があります。

これまで以上に、制度を「作るだけ」ではなく「適切に運用すること」が問われるようになるため、施行前に自社の運用状況を点検しておくことが重要です。

内部通報制度を実効性あるものにするポイント

内部通報制度は、規程を整え窓口を設置すれば終わりではありません。実際に従業員が安心して利用でき、通報が組織の是正につながって初めて意味を持ちます。運用にあたって押さえておきたいポイントを整理します。

  • 制度の存在や利用方法を、研修・社内周知で繰り返し伝える
  • 匿名でも通報できるようにし、通報者の秘密を厳格に守る
  • 通報を理由とした不利益な取扱いを禁止し、その方針を明文化する
  • 通報の受付・調査・是正の記録を証跡として残す
  • 寄せられた通報の傾向を分析し、再発防止やルール見直しに活かす
  • 経営層が制度を支持していることを明確に示す

内部統制の観点では、「制度を整備していること」だけでなく、実際に運用し、記録で示せる状態にしておくことが重要です。通報件数や対応状況を定期的に確認し、形骸化していないかを点検しましょう。

まとめ

内部通報制度は、従業員などからの通報を通じて社内の不正や法令違反を早期に発見し、是正するための仕組みです。内部統制におけるモニタリングや統制環境を支える重要な要素でもあります。

公益通報者保護法により、常時使用する労働者が300人を超える事業者には体制整備が義務づけられており、2026年12月には実効性向上や刑事罰の新設を含む改正法が施行されます。

内部統制に初めて関わる人は、細かな法律要件から入るのではなく、まず「誰が通報を受け、どのように調査し、どう通報者を守るのか」という運用の流れを整理するとよいでしょう。制度を形だけで終わらせず、実際に機能する仕組みへと育てていくことが、健全な組織づくりの第一歩となります。

代表 佐々野未知
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代表佐々野未知

上智大学経済学部卒業。大原簿記学校講師、青山監査法人(当時)勤務を経て、1998年KPMGニューヨーク事務所に入社。
2002年以降は、KPMG東京事務所(現あずさ監査法人)にて外資系企業の法定監査、デューデリジェンス、SOX法対応支援業務を担当する。
現在は、経営コンサルタントとして、内部統制構築支援やIFRSコンバージョン支援に携わるとともに、各種実務セミナー講師としても活躍中。
著書『フローチャート式ですぐに使える内部統制の入門と実践』他。

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